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From: "Hidenori Narita" 
Date: Mon, 21 Jun 1999 12:44:15 +0900
Subject: [shogi]名・6・柏(その5




(その5)(最終回です)

23:33
例によってFAXがピーピーと入る。僕は『〜まで谷川9段の勝ち』
というアナウンスを信じていたのだが、全く終わる気配が無い。
171手目■同金〜180手目□7六銀。
(石田9段)「なんと10手も指し続けていますよ」
棋譜を読み上げ、大盤上の駒を奨励会生に動かしてもらいながら、
(先崎君)「(173手目の■7六飛を)勝ち目の無い手順ですね。
  (176手目の□7五歩に対して)だめ、これ悪手。□9三角
  でオワですよ。もうムチャクチャ。」
(石田9段)「しかし、しつこい将棋だねえ。(佐藤君は)投げ
  きれんのでしょうねえ。」
(先崎君)「それにしてもスジが悪い寄せですね。これから名人に
  なろうという谷川さんとしては。見れば見るほど谷川らしく
  ない寄せ。」
このコメントから、先崎君も谷川ファンかもしれないと思った。
いや、あるいはそういう感覚では無いのかもしれない。先崎君には、
将棋のプロ棋士の、それも頂点に立つ人に対する理想があって、
その頂点に立っている佐藤君や谷川君にはもっとかっこよく指して
くれ、という思いから来る発言なのかもしれない。これはまるで
僕が昨年の高松宮杯の決勝をビューグラフを見ていた時の心境と
同じ気持ちなのだ。そうだ、そうに違いない。先崎君、その気持ち
僕にもわかるよ。
(高松宮杯の決勝の模様は、連盟会報に掲載された観戦記をご参照
 下さい。そう、実はあの試合は、そういう試合だったんです。)

23:43
181手目■7八香〜190手目□9六同香。
石田9段がFAXで来た棋譜を読み上げる。
(石田9段)「....9六同香まで。いや、投了ではありません
  よお。現在ここまで。」
(先崎君)「これは大変?」
(先崎君)「(176手目の)□7五歩から(180手目の)
  □7六銀(の寄せは)がセンス悪すぎ。(184手目の)
  □7七銀でなく□7七角だったら(後手が)良かったで
  しょう。」(注4)
(先崎君)「第一感はまた逆転している。(佐藤優勢)
  いや第一感ですが。」
会場から『ほんとかあ』という、叫びにも似た声が出る始末。
(先崎君)「ほんとに再逆転?.......(しばし沈黙後)
  NHK杯の予選じゃないんだから。」

(注4)
 さすがに現在絶好調の先崎君。彼の解説とおり、184手目の
 □7七銀が最後の敗着だったらしい。)

23:53
191手目■8九玉〜200手目□8四同香。
(石田9段)「いやいや長い将棋になったね。2人とも頭が
  モーローとしているとしか言えないね。」
(先崎君)「いや、ひどいね、こりゃ。」
(先崎君)「あきれてモノも言えない。」

23:57
最後の棋譜がFAXされてきた。
201手目■9五玉〜203手目■8四玉、まで佐藤名人の勝ち。
                       (注5)
(石田9段)「こりゃ、確かにひどい。」
(先崎君)「次が心配です。」

(注5)
 正確な終局時間は、23:54だった。こんな遅い終局時間は
 僕には記憶が無い。)

最後まで会場に残っていた人は、20名くらいだったろうか。この
うち10名くらいは石田9段の柏将棋道場の関係者のようで、
「これからどこ行きます?」なんて石田9段に話しかけている。
先崎君は先崎君で、もう終電あきらめて車で帰る決心をとっくに
していたかのように、本局に対する批評批判を誰にともなく何度も
口にして叫んでいる。僕はさすがに先崎君に話しかける気力もなく
なっていて、「ありがとうございました」と石田9段と先崎君の
方向に向かって一言言い残して会場をアトにした。佐藤君の勝ちと
信じて21時頃帰った人、谷川君の勝ちだと確信して23時半頃に
帰った人、明日の新聞を見てびっくりするがいいのだ。ああー、
こんな事で優越感にひたっても、なーんもいいことないな。

僕の頭の中はぼーっとしていた。一人、とぼとぼと柏駅に向かい
ながら、気分ははっきり言ってブルーであった。つい30分も前迄
は、谷川君の名人奪取が確実だったはずではないのか。先崎君の
解説が正しかったならば、この将棋はプロとして残した棋譜として、
それも名人戦の棋譜としては『ひどい棋譜』という事になる。今頃
2人でお通夜みたいな感想戦をやっているんだろうな、と思いなが
ら電車に乗った。第7局はどうなるんだろう。本局を早く忘れた方
が有利だろうな、と思った。僕はもちろん谷川君の応援だ。
6月17日(木)も、きっとまた柏に来ようと心に誓った。

(おまけ)
ご存じの人はご存じのように、第7局は佐藤君が勝って名人位を
初防衛、連続2期名人の座に着くことになった。まことにもって
立派である。僕にとっても谷川君にとっても非常に残念であるが、
谷川君にはこれにめげる事なく棋聖戦(現在1勝0敗)や王位戦
(挑戦者決定戦待ち)、竜王戦(本戦トーナメントまであと1勝)
をがんばって欲しい。
今思うと、第6局をあのまま佐藤君が普通に勝ちきっていた(逃げ
切っていた)ならば、第7局は谷川君に分があったのではないかと
思う。『粘りようの無い将棋をよくぞあそこまで粘って佐藤君を
苦しめた。負けたとは言え、次につながる良い将棋だった。』と。
それがあのような結末である。僕が一番興味を覚えたのは、佐藤君
の173手目■7六飛を見た瞬間の谷川君の心中である。■7六飛
という手はプロによると、投げきれなくなってしょうがないので
指してみた、佐藤君よく指したなあ、という手らしい。ブリッジに
例えると、『4スペードのディクレアラーが何種類かのプレイ方針
の中から熟考の末に唯一ダウンするプレイを選択し、その後ベスト
ディフェンスをされて既に3つ取られ、ハンドに張り付き状態で
且つ確実に負けるカードが切り札以外に1枚残っている状況で、
クレームせずに切り札を走り続けるようなもの』である。谷川君は
この■7六飛を見た瞬間、おそらく頭の中が真っ白になったのでは
ないか、と田中寅彦9段が週間将棋誌上で言っている。『やっと
終わった。おそらく佐藤君はここで投了、そして私は名人復位。』
と思った矢先、なんと佐藤君は投了せずに指した。佐藤君の名人位
への執念が谷川君を上回ったのだろう。将棋の神様は、今回は佐藤
君に微笑んだ。『そうか、そんなにしてまで名人位を防衛したいか。
それなら、許したもう。』こんなところかもしれない。どうか神様、
来年は、谷川君に微笑んで下さいますように。

<おわり>
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キヤノン株式会社 取手事業所 映事品質計画1課 成田秀則
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